2017年インフルエンザワクチン不足問題

テレビや新聞の報道でもご存じだと思いますが、例年と違い、ワクチンは足りません。前回(10月3日)の投稿以降にわかった情報を記載します。

現在、使用されているA香港株を含む4価ワクチンは「抗体価の上がりが悪く、3カ月程度しか効果がない。」と、評価されていました。海外でのインフルエンザワクチンは全粒子型ワクチンなので、日本の採用しているスプリットワクチンより柔軟性があり、ある程度のインフルエンザの変異に対応できます。また、当院でも採用しているフルミストは生ワクチンなどで、はしかワクチンの様に、相当の変異まで対応できます。2016年に、第一三共が厚生労働省に、「フルミスト」の承認申請をしましたが、昨年の米国CDCが推奨しないと発表したため、先行きは不明です。

こういったごたごたの中、今年度(2017年)、オーストラリアでインフルエンザが大流行し、政府の統計によると、8月18日の時点で確認された症例は、前年同期のほぼ2.5倍の9万3711人に上った。感染者が最も多いのは80歳以上の高齢者と5~9歳の子どもで、今年に入ってからのインフルエンザによる死者は計52人と、前年同期の27人に比べて急増した。入院した患者も昨年の719人から今年は1429人に増えている。大流行しているインフルエンザはA(H3N2)型が中心で、死者の81%はこの型でした(A香港亜型)。

インフルエンザのワクチンは毎年、南半球向けと北半球向けにA型とB型を組み合わせてつくられますが、日本が今年度採用しているインフルエンザワクチンはH3N2型については、昨年度と同じです。
A/Singapore(シンガポール)/GP1908/2015(IVR-180)(H1N1)pdm09
A/Hong Kong(香港) /4801/2014(X-263)(H3N2)
B/Phuket(プーケット)/3073/2013(山形系統)
B/Texas(テキサス)/2/2013(ビクトリア系統)

このA香港型(H3N2)がオーストラリアで大流行したA香港亜型(H3N2)に対して感受性が悪いことが判明し、厚生労働省はインフルエンザワクチンメーカーに対し、急遽、より感受性の高いA埼玉株(H3N2)を含んだインフエンザワクチン製造の指示を出しました。新ワクチンの製造に取り掛かったところ、抗原量の生成率はA香港型と比べ、約33%でした。当初の計画通り製造を続けると、推定ワクチン製造量は1000万mlとなり、昨年度使用量の35%程度しか確保できません。そこで、計画は白紙撤回され、現在使用しているA香港株型を含むワクチン製造をやり直しました。A埼玉株製造段階で使用された鶏卵が全て無駄になった上、時間的制約もあるため、2528万mlのワクチン生産しかできないことになりました。昨年の全国の使用量は2642万mlなので、約96%ということになります。当初、昨年の使用量の約4%減なので、厚生労働省は「13歳以上は原則1回接種など適切な使用法を徹底すれば、昨年度と同じほどの接種者数は確保できる」と説明していましたが、末端の医療機関に納品を予定されている量は昨年実績の70~80%前後です。

なぜ、96%ではなく、末端の医療機関に70~80%しか納入されないのか?新規開業医の医療機関に配布する分とは別に、国は大規模災害用に一定数保管しているからです。実は、廃棄される予定だったA埼玉株を含んだ新インフルエンザワクチン約250万ml(約500万人分)とA香港株型ワクチン約250万ml(約500万人分)が全国数カ所に保管されています。東日本大震災のような災害が発生し、避難所などが多数立ち上げられた時や新型インフルエンザが流行した時に、政府から開放されるようです。